コラム
Column

口を開けば、心がほどける――GDK(German Doner Kebab)が仕掛けるオフライン×オンラインの広告展開
2025年2月10日

看板に刻まれた「次元を超える味」のヒント
ふと目に飛び込んでくる一枚の野立て看板。その瞬間、日常の景色がぱっと変わる――そんな経験はないだろうか。実際、野立て看板には私たちの想像以上に「人の心を動かす力」がある。そのわかりやすい事例がある。英国発祥の「ケバブ」を提供するファストカジュアルチェーン「German Doner Kebab(GDK)」が米国で展開したキャンペーンだ。
オレンジ色の文字で大きく書かれた「IT’S NOT SANDWICH.(これはサンドイッチじゃない)」という謎めいたフレーズと、パンに肉や野菜をたっぷり挟んだ写真が印象的な看板。思わず「これはいったい何なんだ?」と興味を搔き立てるインパクトがある。さらに、その真横に「BUT ALSO NOT-NOT SANDWICH.(でも“サンドイッチじゃない”とも言い切れない)」という一文が添えられ、見る者の固定観念を心地よく揺さぶってくる。
GDKが届けたいのは、「おいしいケバブ」の宣伝ではなく、“新たな食の体験”の提案だ。そんな姿勢を、たった数行のコピーと一枚の写真で表現するのが、この看板の妙。消費者に「食べてみたい」という欲求を起こさせるだけでなく、「そもそもケバブって何?」「サンドイッチとどう違うの?」と、頭の中を探求モードに切り替えてくれる。
■参考サイト:https://www.adsoftheworld.com/campaigns/open-your-mouth-mind-c0c723cb-1035-44c6-bd8a-89ab07447018
人を惹きつける「Open Your Mouth Mind」の仕掛け

GDKが展開する「Open Your Mouth Mind」キャンペーンの核心は、“未知との遭遇”を促すことにある。言い換えれば、「口を開けば心も開く」というメッセージで、慣れ親しんだ食の概念を飛び越え、新しい扉を開いてみようという呼びかけだ。重要なのは、それを押しつけがましくなく、ちょっとクスリと笑ってしまうような言葉遊びで表現している点。
この軽妙さこそ、多くの若者、特に「Gen-Z」と呼ばれる世代の感性にフィットする。彼らはSNSを中心に面白いものを見つけると、すぐに共有して盛り上がる傾向がある。
GDKはそこに着目し、野立て看板を含む屋外広告とデジタルメディアを連携させることで、オンラインからオフラインへ、さらにオフラインからオンラインへと話題を循環させる仕組みを作り出した。看板はその重要な起点となり、人々の好奇心を刺激してストーリーを広めるエンジンの役割を果たす。
野立て看板がつくる“地域のハブ”という価値

このような広告手法は、大手企業だけの特権ではない。むしろ、地域密着型の小規模事業こそ、野立て看板の魅力を存分に活かすチャンスがある。
理由は簡単。街角に立つ看板は、そこに住む人々が毎日通りかかる場所に固定され、否が応でも目に入る。テレビCMやネット広告が一瞬で流れ去るのとは違い、地元の人々に何度も同じメッセージを届け、ゆっくりと記憶に浸透させることが可能なのだ。
しかも、看板にインパクトがあれば、「今度あの店に寄ってみよう」「新しいお店ができたらしいよ」と周囲に話したくなる。そうして噂が広まることで、看板自体が“地域のハブ”となる。認知度を上げたい店舗や医院にとって、これは大きな追い風となるはずだ。
自分のビジネスに落とし込むための3つのポイント

では実際に、あなたのビジネスでどのように野立て看板を使えばいいのだろうか。ここでは、GDKの事例を参考にした3つのポイントを挙げたい。
1. コピーは短く、覚えやすく
– 「IT’S NOT SANDWICH. BUT ALSO NOT-NOT SANDWICH.」のように、気になるフレーズをあえて短くまとめることで、瞬間的に読めて記憶に残りやすい。情報を詰め込みすぎず、1つの要素を大胆に打ち出すと効果的だ。
2. デザインはシンプル&ビジュアルを際立たせる
– 背景に余白を取り、目立つ色やフォントを使う。GDKの看板では、ビビッドなオレンジ色がメインコピーを引き立て、ケバブの写真が「美味しそう!」と訴えかける役目を果たしている。店舗やサービス写真も、魅力的に撮影すれば十分インパクトになる。
3. キャンペーン全体のストーリー性を意識する
– 看板は独立した広告ではなく、SNSや店頭イベントなど他の施策と連携させると効果倍増。GDKのように「新しい体験をしよう」というコンセプトを全メディアで統一して打ち出すと、消費者が複数の接点で納得し、行動に移りやすくなる。
結局、看板にできることは「目に留める」「興味を引く」という初動をつくること。それを「行ってみたい」「買ってみたい」という具体的な行動につなげるには、現場でのサービスの質や、オンラインとの連携など総合力が求められる。とはいえ、まず消費者の頭に「何か新しいかも」「気になる」という種を植える段階では、野立て看板ほどコストパフォーマンスに優れた手段はそう多くないだろう。
口を開けば、心も開く――あなたの看板が描く未来

GDKの「Open Your Mouth Mind」は、私たちに“固定観念を飛び越えて、新しいチャンスに口を開こう”と語りかける。地元で歯科医院を経営している人も、小さなカフェを営んでいる人も、あるいは古き良き伝統を守る工房を構えている人だって、その本質は同じだ。あなたのビジネスが持つ世界観や独自性を、シンプルな言葉とビジュアルに凝縮し、街角で堂々と提示してみてほしい。通りがかった誰かが「ちょっと気になる」と思い、足を踏み入れた瞬間、それはきっと新しい出会いを生む。
「口を開けば、心も開く」――その一歩を生み出すために、野立て看板ほど頼もしい存在はない。今日からあなたが挑戦する看板の先に、どんな物語が待っているのか。想像するだけでも、心が踊り出しそうになるのではないだろうか。