コラム
Column

歯を守る、命を守る――“広場”をめざす盛岡の歯科医院が描く理念を看板に
2025年1月31日

岩手県盛岡市内に思わず目を奪われる看板が立っている。「歯を守る、命を守る。」という大きな文字が、青空に向かって堂々と掲げられているのだ。その下には「デンタルスクエアもりおか青山」への道案内が「直進2.5km」と示されている。
「歯と命」と聞くと、大げさに感じる人もいるかもしれない。しかし、歯の健康が全身の健康と深く結びついていることを知れば、このフレーズに決して誇張はないとわかる。歯科医院が地域の“広場”になることを目指す医院のこの看板は、一体どんな思いを背負っているのだろうか。
痛くなくても通える歯科医院のメッセージ

看板にはわずか数行の情報しか載っていない。「歯を守る、命を守る。」という強いキャッチコピーと、「デンタルスクエアもりおか青山」という名称、そして「直進2.5km」の矢印。このシンプルなレイアウトが、むしろ目にした瞬間にすっと頭に入り込んでくる。
一般的な歯科医院の看板といえば、「むし歯」「歯周病」「小児歯科」「矯正」など、多くの診療内容を詰め込みがちだ。しかし、この看板はあえて余白を残し、視線をキャッチする言葉を厳選している。
この医院が掲げるコンセプトの一つに「痛くなくても来てほしい」という想いがある。歯科といえば「痛んだら仕方なく行く場所」というイメージが強いが、予防の大切さを知れば知るほど、症状が出る前に通うことの重要性がわかってくる。「歯を守る」とは、実際には“命を守る”ことにもつながるという考え方がここにある。口は全身の入り口であり、歯周病などの進行が生活習慣病や循環器疾患に影響を及ぼす可能性も指摘されているからだ。
“広場”を目指す歯科医院と野立て看板の相乗効果

「デンタルスクエアもりおか青山」が目指すのは、治療だけを行う場所ではなく、地域の人々が気軽に集まり、相談し、学び、健康づくりを共有できる“広場”だ。そこでは「歯の痛みがあるから仕方なく行く」という受動的な発想ではなく、「むしろ元気なうちに通っておきたい」「仲間と一緒に健康について話し合いたい」という前向きなコミュニティが形成されることを理想としている。
こうした医院としての理念を、わずか一枚の看板でどう伝えるか。結論から言えば、すべてを説明する必要はない。先述のとおり、看板にはシンプルな言葉が少しだけ書かれている。見る人にとっては「歯を守る、命を守る」とあるが、いったいどういう意味なのかと興味がわく。「あれ、普通の歯医者さんじゃないのかな」という疑問や関心だけが喚起される。
ネット広告やSNSに比べ、野立て看板は物理的な場所での“繰り返し接触”を生む。盛岡市のように車移動が日常化しているエリアでは、毎日の通勤・買い物のたびにこの看板を目にする人が少なくない。結果として、「歯を守る、命を守る」というフレーズが少しずつ記憶に刷り込まれ、実際に歯が痛む、あるいは健康診断で指摘を受けるなどして「歯科医院に行かなければ」と思ったとき、ふと“あの看板の歯医者”を思い出すきっかけになるのである。
シンプルなデザインがもたらす印象と行動のきっかけ

看板を見ると、背景は白を基調としたプレーンなデザインで、その上にやや手書き風のフォントで「歯を守る、命を守る。」と描かれている。下段にはブルーの帯が配置され、「デンタルスクエアもりおか青山」「直進2.5km」という情報が目立つ形でまとめられている。色使いも多くはなく、基本的には白、黒、黄色、ブルーの四色だ。
このシンプルさがこの看板の最大の武器である。チラシのように文字がびっしり詰まっていると、運転中や通りすがりではとても読み切れない。しかし、このシンプルなデザインならコア情報だけが、一瞬で理解できる。むしろ余計な情報を削ぎ落とすことで、医院側の想いがストレートに伝わり、見た人の記憶に残りやすいのだ。
さらに、「歯を守る、命を守る。」という言葉にはインパクトがある。歯の健康と全身の健康を結びつける考え方がまだ一般には浸透しきれていない中で、このフレーズは驚きや興味を誘い、“そういうものなのか”と理解を促す扉になる。実際、この一行をきっかけに「歯周病が生活習慣病に影響するって聞いたことがある」と思い出す人もいるだろうし、「どうやらこの医院は予防とか健康づくりに力を入れているらしい」と推測する人も出てくるはずだ。
地域を変える力――看板×歯科理念の未来

歯科医院が野立て看板を活用するメリットは、単なる認知度アップだけではない。通りすがりの人の興味を惹き、来院につなげることで、結果的に地域全体の健康リテラシーを高める可能性があるからだ。「痛くなるまで放っておく」という従来の受け身の姿勢が、「痛くなくても、むしろ行っておこう」に変化すれば、長い目で見たときに健康問題への支出や負担が軽減されるかもしれない。
デンタルスクエアもりおか青山は、「広場」としての歯科医院を目指している。患者同士が情報を交換し、スタッフとともに口腔ケアや健康に関する知識を深める。そんな場があると、人々は歯科医院を“痛みがあるときだけ行く場所”ではなく、“自分の体を大切にするコミュニティ”として捉えるようになる。看板はその入り口となり、「ここなら気軽に相談できるかもしれない」と思わせるトリガーになるわけだ。
とはいえ、看板だけですべてを語るのは不可能である。だからこそ、実際に来院した患者が「痛くなくても丁寧に診てもらえる」「スタッフが親しみやすい」「全身の健康まで考慮してくれる」と感動すれば、自然と口コミが生まれるだろう。その口コミがまた次の患者を呼び、地域全体に“歯を守る、命を守る”意識が根づいていく。医院が掲げる「凛として生き生きとした人生」の実現に近づく道は、こうした小さなきっかけの積み重ねで作られるのではないだろうか。 結局のところ、歯科医院のブランディングとは、患者に「ここなら大丈夫だ」「ここでなら気軽に相談できる」と感じてもらうことに尽きる。看板に大きく掲げられた言葉とデザインは、その初めの一歩を印象的に演出してくれるはずだ。そして地域の人々が“歯を守る、命を守る”という考え方に共感し、実際に健康づくりに取り組み始めたとき、この歯科医院がめざす“広場”という姿がさらに鮮明になるだろう。一枚の看板がきっかけで、盛岡の街に新しい健康文化が芽生えるかもしれない。そんな未来を想像すると、たかが看板とは侮れない大きな可能性を秘めていると感じざるを得ないのである。