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バナナとパスタが出会うとき――意外性で生まれる看板広告効果

2025年1月24日

バナナとパスタが出会うとき――意外性で生まれる看板広告効果

バナナとパスタの出会いにびっくり?


もし街の大きな看板に、バナナとパスタのイラストが一緒に映っていたら、あなたはどんな印象を受けるだろうか。

「あれ、こんな異色の組み合わせが何を狙っているの?」と、思わず視線を止めるかもしれない。それこそが、今回取り上げるチキータ(Chiquita)とデチェコ(De Cecco)のコラボ広告キャンペーンが狙う“意外性の力”だ。 

チキータはアメリカを代表するバナナブランド、そしてデチェコはイタリアが誇る高級パスタメーカー。お互いに知名度も歴史も十分ある大企業だが、ふだんは接点がなさそうな食品同士の組み合わせである。

「バナナとパスタなんてどう絡むんだろう?」――その違和感こそが、看板広告の要となる。今回、この2ブランドがアメリカやイタリア各地で野立て看板を展開し、「Small change, big difference(小さな変化、大きな違い)」という共通のコンセプトを掲げたのである。

■参考サイト:https://www.adsoftheworld.com/campaigns/small-change-big-difference-123f5606-8e44-40de-bfc3-b1ef92cfdca5


“Small change, big difference”――看板が伝えるメッセージ

バナナとパスタが出会うとき――意外性で生まれる看板広告効果


このキャンペーンは、単に「バナナもパスタも一緒に買ってね」という販促に終始していない点が面白い。

「小さな変化が大きな違いをもたらす」というメッセージを通じて、日々の食卓や暮らしをちょっとだけ豊かに、楽しく変えていこうという提案がうかがえる。 

例えば、いつもはパスタを茹でるだけで満足している人が「そこにフルーツの甘味やさわやかさを加えたらどうなるだろう?」と想像してみる。小さな発想の転換から、意外な料理のアイデアが生まれたり、新しい味わいに出会えたりする可能性がある。看板はそうしたヒントを視覚的に示し、通りすがりの人々に「何か面白そう」と思わせる効果を狙っているわけだ。

実際、このキャンペーンの狙いは「コラボならではの新鮮さ」で、消費者の意欲を引き出すことにある。たとえばバナナが好きな人がデチェコのパスタを初めて手に取ってみたり、逆にパスタ好きがいつもよりバナナを買ってみたりするきっかけとなる。

複数のターゲット層を相互に行き来させるマーケティング手法と言い換えてもいいだろう。


野立て看板が作り出す“コラボの妙”

バナナとパスタが出会うとき――意外性で生まれる看板広告効果


こうした異色コラボは、SNSやテレビCM、雑誌広告でも可能だが、なぜ野立て看板を選んだのか。そこには“場の力”を活かすという、看板ならではのメリットがあるからだ。

街の交差点や高速道路沿い、ショッピングエリアなど人が往来する場所に、ビジュアルの大きな看板があると、通行人やドライバーの注意を自然に引きやすい。しかも、看板は一度設置すれば長期間その場所にあり続けるため、「昨日も見たし、今日も見てしまった」という“繰り返し接触”効果を発揮する。

そこで、チキータとデチェコの鮮やかなカラーやアイコンを大胆に配置すれば、「見慣れたはずの景色に突如としてバナナとパスタが並んでいる」という違和感が際立ち、驚きとともに人々の記憶に残るのだ。


デザイン分析――ピンクとイエローの美学?

バナナとパスタが出会うとき――意外性で生まれる看板広告効果


今回のキャンペーンでは、実際の看板画像を見れば一目瞭然だが、背景にビビッドピンクを使い、そこにチキータの青×黄色のロゴやイラストが配置されている。

さらに、デチェコのシンボルである麦を抱える女性のイラストも加わり、パスタのイメージとバナナのイメージが一つの画面で融合している。

注目すべきは、そのカラフルな組み合わせがまったく統一感を損ねていない点だ。チキータの青と黄色、デチェコの深いブルーと麦色、そして背景の鮮やかなピンクという3色が、むしろポップなムードを演出している。

人間の視線は濃い色彩の塊に引き寄せられやすく、ピンクや黄色のように明度の高い色が看板に使われると、遠くからでも目立ちやすい。

さらに、そこに添えられた「Small change, big difference」の白文字が、メッセージをパキッと際立たせる。まさに色彩心理学を巧みに応用したデザインである。大勢の人が行き交う場所でも、「何か楽しそうなキャンペーンをやっているな」と感じてもらいやすいだろう。


ブランディングの幅”を広げるコラボのメリット

バナナとパスタが出会うとき――意外性で生まれる看板広告効果


バナナとパスタという、普段は繋がりそうにない製品同士が手を組むと、両社にとってどんなメリットがあるのだろうか。まず考えられるのは、新しい顧客層の開拓である。チキータのファンがデチェコに興味を持ち、デチェコのファンがチキータを意識し始める――それが単純な購買促進を超えて、双方のブランド認知度を底上げする。

また、消費者の立場からすれば、「いつものパスタにバナナを添えて、フルーティーなソースを作ってみようか」「バナナスムージーとパスタのセットで健康的な食生活を楽しもう」といった新しい発想が生まれるかもしれない。生活者が感じる“一手間加えるワクワク感”こそが「Small change, big difference」の精神そのものだ。


小さな変化が生む、大きな違い

バナナとパスタが出会うとき――意外性で生まれる看板広告効果


バナナとパスタが出会うなんて想像もしていなかった人がほとんどだろう。しかし、チキータとデチェコのコラボ看板を見ると、「なるほど、一緒になっても悪くないかも?」とポジティブに感じるから不思議だ。ビビッドピンクの背景に描かれたアイコンや、鮮やかなロゴが一目で印象付ける世界観は、通りがかりの人の目を奪い、“いつもの食卓がちょっと変わる予感”を与えてくれる。

そして、この“意外性×ワクワク”の掛け合わせこそが、野立て看板を活用したブランディング戦略の真骨頂といえる。

視覚的に強いインパクトを放ちつつ、「なんでバナナとパスタ?」という疑問を抱かせ、その答えを「Small change, big difference」として返す構造。そこには「少しの工夫であなたの毎日が大きく変わるかもしれない」という前向きなメッセージが込められている。

これは決して大企業だけの特権ではない。地域の小規模事業であっても、「自分たちが何を大切にし、どんな意外性を消費者に与えれば楽しいだろうか?」と考え、それを野立て看板というリアルな場所で堂々と見せてみる。

たとえ最初は小さな変化であっても、“やってみたら意外な好反応があった”といったストーリーが生まれれば、その先にはチキータとデチェコのように大きな違いを生む未来が待っているかもしれない。

まさに“少しの勇気が、大きなブランディング効果を生む”――この看板キャンペーンは、そんな希望を私たちに投げかけている。