コラム
Column
ノスタルジーを味方にする――コダックの復活に学ぶ、野立て看板の時代超越戦略
2024年12月27日
街中の看板が語る“時代を超えた価値
日々の通勤路や何気なく通りかかる道路脇で、ふと目を奪われる野立て看板。派手な配色やキャッチフレーズに目を見張るかもしれないし、あるいは淡い色合いにそっと心をつかまれるかもしれない。野立て看板とは、いつでもそこに立ち、通行人やドライバーの目に自然と入り込む「空間と一体化した広告媒体」である。それは、時に地域の“語り部”としても機能する。
こうした野立て看板の魅力を改めて考える上で、アメリカの老舗フィルムメーカー、コダックの事例は示唆に富んでいる。一時はデジタル化の波に飲まれ、衰退産業と思われていたフィルム写真が、近年若者を中心に再評価され始めたのである。
コダックが展開した野立て看板キャンペーンは、「Some things never go out of style(いくつかのものは決して時代遅れにならない)」というメッセージを大きく掲げ、古い写真と新しい写真を対比させて「時代を超える価値」を訴求した。見るだけでノスタルジーが呼び起こされ、かつ新しい世代も好奇心を刺激される。この「古さ×新しさ」の融合は、小規模事業者にとっても学びが多い。
■参考サイト:https://www.adsoftheworld.com/campaigns/timeless-f04e23fd-4611-4d2e-a027-526769beec94
野立て看板の強み:見過ごせない広告効果
インターネット広告が全盛の今、地域密着型ビジネスはネット上での集客を検討することが多い。しかし、コストパフォーマンスを考えるなら、野立て看板は決して見過ごせない選択肢である。理由は大きく二つある。
一つ目は「場所性」である。
看板は文字通り“そこ”に存在し、24時間休まずメッセージを放ち続ける。地域の住民や通勤者は、毎日のように同じ道を行き来するので、自然と目に留まり、潜在顧客への認知度アップを狙えるのだ。駅近くや主要道路沿いに設置すれば、一定の人口が繰り返し視認する機会があり、デジタル広告とは異なる“物理的接触”が期待できる。
二つ目は「視覚的インパクトの大きさ」である。
道路脇の大きな看板に強い色や印象的なビジュアルが用いられていれば、走行中の車や歩行者の意識を一瞬にして捉えられる。人はオンライン広告に日々さらされて飽和状態だが、リアル空間で出会う看板には、ネット上とは異なる意外性がある。特にローカルな場所であれば尚更、「近所にあんな看板ができていた」などの話題性が生まれ、口コミが広まる可能性も高い。
コダックの“時代を超えた”コンセプトから学ぶ小規模事業ブランディング
コダックのキャンペーンが興味深いのは、かつてフィルム界を席巻しながらデジタル化の波で沈んでいったブランドが、再び“古き良きもの”として息を吹き返す物語を演出している点である。
若者の間でフィルムカメラが“新鮮な趣味”としてブームになりつつある流れを的確につかみ、野立て看板でも「これは決して時代遅れにならない」という自信を表明している。
この「古さと新しさを合わせ持つ」姿勢は、小規模事業者が地域で長く愛されるためのブランディングにも応用できる。「創業○○年」や「地元密着」の歴史を持ちながらも、同時にSNSを活用したり、新しい商品ラインを打ち出したりするなど、新旧をマリアージュするのだ。
看板のデザインで過去と現在を象徴的に対比し、「変わらない価値」と「これからの挑戦」を同時に伝えることができれば、見る人に「ここには昔から続く信頼感があり、かつ新鮮さもある」という印象を与えられる。
感情に訴えるデザイン:ノスタルジックなイメージと現代性の融合
コダックの野立て看板をよく見ると、キャッチフレーズとビジュアルだけで、しっかりと“物語”が伝わってくる。たとえば、昔の家族写真と現代の家族写真を並べ、「装いは違うが、家族の笑顔は変わらない」といったメッセージを印象づけるように仕立てている。人々は思わず自分のアルバムを思い出し、「昔撮った写真もよかったな」と懐かしい気持ちになるだろう。
野立て看板が真価を発揮するのは、まさにこうした“ちょっとした感情の揺さぶり”を生むときである。言葉が多すぎる広告は読む気が失せるが、ノスタルジックな一枚の写真や、タイムレスなフレーズが大きく書かれていれば、そのイメージが一瞬で心に染み込む。
地域の小規模事業でいえば、「昔ながらのレシピ」と「現代のアレンジ」を対比させるベーカリーなどは、その二つを並べて見せ、「伝統と革新、どちらも楽しめる」とアピールできるはずである。医院やサロンでも、「患者に寄り添う姿勢は昔から変わらないが、最新機器はどんどん導入している」といった対比を視覚化し、安心感と先進性の両面を打ち出すのも有効だ。
実践ヒント:小さな予算で最大効果を狙う看板術
野立て看板を使うにあたって、以下のポイントを押さえると効果が高まる。
1. 設置場所の選定
– いくらデザインが優れていても、人通りが少ない場所では十分な効果を得にくい。通勤路や信号待ちが多い交差点など、人々が必ず目にする動線を狙うべきである。
2. シンプルな構成
– 多くの情報を盛り込みすぎると、本来伝えたいメッセージがぼやける。「特に何を伝えたいか」を一つに絞り、その要素を大きく、わかりやすく配置する。キャッチコピーは短めにまとめる方が、走行中の車からでも読んでもらえる。
3. ビジュアルとコピーの一貫性
– コダックが象徴する「フィルム」「黄色×赤」のカラーやロゴのように、自社のイメージカラーやアイコンを明確にする。小規模事業でも統一感を持たせることで、記憶に残りやすくなる。
– ノスタルジックな写真を使うなら、キャッチコピーにも同様の情緒を加える。逆にスタイリッシュさを打ち出したいなら、グラフィックも洗練されたものにする。
4. SNSとの連携
– 看板だけに頼るのではなく、SNSでも同じコピーやカラーを使えば、相乗効果が期待できる。地域の人がハッシュタグをつけて写真を上げてくれれば、さらに広がりが生まれる。
5. “時代を超える価値”の訴求
– コダックのように「Some things never go out of style」という軸を設定して、自社サービスや商品が持つ“普遍の強み”を伝える。地元の信用や長い伝統、手間を惜しまない製法など、時代が変わっても本質は同じというメッセージを盛り込むと、見る人の胸にストンと落ちやすい。
時代を超える価値で地域を魅了する
コダックがデジタルカメラの登場で苦境に立たされながら、フィルムを愛する若い世代の新しい感性を取り込み、“時代を超えた価値”を再び世に示した事例は、小規模事業者にこそ大きな示唆を与えてくれる。「変わらない良さ」を存分に活かしながらも、あえて新しい視点を取り入れることで、衰退ムードを一転させたのである。
野立て看板もまた、一見アナログな広告手段に見えるが、実は地域密着型ビジネスとの相性が抜群だ。人々が必ず通りかかる場所を押さえ、ビジュアルとコピーの組み合わせで“時代を超えるストーリー”を届けられれば、広告費に見合う以上の集客効果と認知度アップが期待できるだろう。そこに含まれるのは、ビジネスの単なる情報ではなく、「自分が大切に思う価値観」「地域とのつながり」「消費者が心を動かされる余地」といった無形の財産である。
コストパフォーマンスを重視する経営者にとって、野立て看板はリスクの少ない出発点でもある。デジタル広告に対して「どう活かせばいいのか分からない」「ライバルが多すぎる」と感じているなら、まずは自身の地域という“小さな世界”を狙える看板から始めてみてはどうだろう。コダックの例が物語るように、たとえ時代やメディアが移り変わっても、変わらぬ価値を人々に響かせるチャンスは常にある。そこに、あなたのビジネスならではの“時代を超える何か”を詰め込めば、見慣れたはずの街角が、新しい物語の舞台になるかもしれない。