コラム
Column
謎解き看板でブランドを訴求するイギリスのユニークな野立て看板
2024年11月28日
ロンドンに現れたミステリー看板
ロンドンの街角に、突如として不思議な野立て看板が現れた。看板には具体的な情報が見当たらない。まるでミステリー。ただ、白い板面に鮮やかな色合いの食品が並べられた、シンプルなデザインである。合計5枚の看板、それぞれに並べられた食品は異なり、どれも異なる種類の食材が5つずつ並んでいる。しかし、企業名もロゴもない。宣伝らしい情報は一切なく、ただ5つの食品が並べられているだけである。
通行人の興味を引くパズル看板
通りかかった人々は、その看板の前で立ち止まり、首をかしげる。
「これは一体何を意味するのか？」
誰もがそう思うだろう。まるでパズルのようなこの看板、見た者に考えさせる余地を残している。
いちごやオリーブ、マグロステーキ、エクレアといった食材が何の脈絡もなく並んでいるように見えるが、そこには何かしらの意味があるに違いない。この謎に挑んでもらうことこそが、看板の目的であり、見る者に「解いてみたい」という好奇心を掻き立てるのである。
この看板は、まるで通行人との対話を試みるかのような仕掛けだ。食品が並べられた順番や種類を見て、人々はそれぞれに想像力を働かせる。何気ない食品たちがどのように結びつき、どんな意味を持っているのかを考えるそのプロセスこそが、看板を見る者に強い印象を残し、ブランドへの好奇心を掻き立てるのだ。
看板の秘密とは？
実は、この看板はイギリスの大手スーパーマーケットチェーン、Tescoの企業ブランディングキャンペーンの一環で設置された看板である。その秘密は、看板に並べられた食材の英語名の頭文字に隠されている。例えば、最初の看板には「みかん、卵、いちご、クロワッサン、オリーブ」が並んでいるが、それぞれを英語にすると「Tangerine、Egg、Strawberry、Croissant、Olives」となる。この頭文字を取ると「TESCO」となるのだ。他の看板も同様に、並べられた食材の頭文字を繋げることで「TESCO」の文字が浮かび上がる。
このシンプルでありながらも巧妙な仕掛けは、ブランドの価値を直接的に訴求するのではなく、消費者自身にその価値を見つけさせることにある。人々は看板の前で立ち止まり、考え、答えを見つける。その過程でブランド名が深く記憶に刻まれるのである。このような体験は、ブランドに対する信頼感や親近感を高める要因となる。
企業名を出さないブランディングの妙技
つまり、この看板は一般的な広告を超えた仕掛けであり、見る者に考えさせ、驚きを与える仕掛けが施されているのだ。
企業名やロゴを直接描くのではなく、食品を使ってロゴを象徴することで、ブランドが持つ「新鮮な食材」へのこだわりを視覚的に訴求している。通行人が自らこの謎を解き明かすことで、「なるほど、Tescoか」と納得し、そのブランド名が深く記憶に刻まれる。この過程そのものが、ブランドの認知度向上に大きく寄与しているのである。
また、企業名を出さないことで見る者に余白を与え、自らその意味を考えさせることができる。ブランドの価値を一方的に押し付けるのではなく、消費者自身がその価値を見つけ、感じることで、より強い感情的な結びつきが生まれるのである。この看板は、視覚的な魅力だけでなく、消費者との深いインタラクションを生み出すことに成功している。
新鮮さと品質を強調するメッセージ
さらに、このキャンペーンは「品質の高い新鮮な食材を提供する」というTescoのブランドメッセージを強調する役割を果たしている。食品の新鮮さや品質に焦点を当てることで、消費者に対して「Tescoなら安心して購入できる」という信頼感を与えることができる。そして、それをあえてシンプルなビジュアルで表現することで、見た目のインパクトを最大限に引き出しているのだ。
看板に描かれている食品は、どれも新鮮で美味しそうなものばかりである。これらの食品を見たときに、消費者は「Tescoの商品は新鮮で安心だ」と自然に感じることができる。このように、シンプルなビジュアルを通じて視覚的に品質を訴求することは、ブランドメッセージをより強く印象付ける手法である。
広告を超えた体験の創造
広告とは、単に情報を伝えるだけではなく、見る者との感情的なつながりを生み出すものである。この看板キャンペーンは、その点で非常に成功している。見る者に謎を解く楽しさを提供し、その過程でブランドに対する親しみを生み出しているのだ。広告を通じて提供される体験が、消費者の心に強く刻まれ、長期的なブランド価値の向上につながっている。