コラム
Column
野立て看板が描く新たな地図 ―― ジープ厚木店の看板戦略
2024年11月26日
海老名市北口 ―― タワーマンションが次々と建ち、地域全体が未来に向けて動き出すエリア。その街の一角で、見る者の記憶に「なんとなく残る」看板が立っている。黒を基調としたシンプルなデザイン、そして「Jeep」という文字。なぜか視線が引き寄せられるその看板は、ジープ厚木店が設置したものだ。
ジープ厚木店がオープンしたのは2023年12月。当初はチラシを配布し、多くの反響を得た。しかし、その勢いは長く続かなかった。オープン直後の熱気が冷め始めると、認知度と集客の課題が浮き彫りになったのだ。
そんな中で同店が注目したのが「野立て看板」だった。
ジープ厚木店は、主要幹線道路である129号線と246号線、そして海老名駅北口エリアという3カ所に戦略的に看板を設置。特に海老名駅北口では、両面デザインの看板を採用し、住民が行き帰りに異なる車種を目にできる仕掛けを施した。「ジープの冒険心」を訴求するこれらの看板は、通行者や地域住民に新しい物語を届ける役割を果たしている。
看板が誘う冒険心 ――「通り過ぎるだけでは終わらない物語」
野立て看板の本質は、直接的な商品の販売訴求ではない。「視覚的なランドマーク」として通行者の心に記憶を刻むことにある。
同店の場合、129号線や246号線の幹線道路に設置されたシンプルなロゴ看板は、車で通り過ぎる短い瞬間でも「ジープ」というブランドイメージを鮮明に伝える。その視認性の高さと一貫性が、看板を通じてブランドの信頼感を積み上げるのだ。
さらに興味深いのは、海老名駅北口に設置された両面看板だ。片面にはアウトドアを象徴するジープのSUV、もう片面には都会的なデザインが魅力の車種 ―― 住民の日常の移動ルートに溶け込みながらも、異なるライフスタイルを示唆するメッセージが含まれている。
この看板は、「選べる楽しさ」や「自分らしい冒険」を想像させ、日常の中に非日常感を差し込む仕掛けになっている。
このエリアに住む高所得層の住民や新築マンションへの移住者にとって、ジープは「ただの移動手段」ではない。むしろ、日常を特別なものに変える「ライフスタイルの象徴」だ。看板を通して描かれるのは、ジープを所有することで広がる冒険の可能性と自由の風景である。
地域に根差すブランド戦略
ジープ厚木店が海老名に看板を設置した目的は、情報を届けるだけの広告ではなく、地域とブランドを繋ぐ「架け橋」となることにあった。
このエリアは、再開発が進む活気ある街。駅前の商業施設や新築マンションが次々と完成し、新しい住民が流れ込む中で、地域全体が「新しい生活」を模索している最中だ。
ジープの看板がその街並みに溶け込みながらも際立っているのは、この地域の成長とブランドのメッセージが共鳴しているからだ。野立て看板は、ただ景色にアクセントを加えるだけの存在ではない。街の記憶に刻まれ、「住む街」と「冒険」という二つの価値を結びつける役割を果たしている。
今後の課題として、設置した野立て看板がSNSで自然発生的に話題になるような、戦略的な複数本の設置だろう。例えばこんな近未来を想像する。ジープ厚木店のシンプルながら高級感を感じさせて印象に残る看板デザインを目にした通行人が、「あの看板、かっこいいね」と写真を撮って投稿したり、口コミで「ジープの店、どこにあるの?」と話題にすることで、自然な形で地域の中に認知が広がっていく様子だ。
そこまでいけば、広告としての役割を果たすだけでなく、地域住民とのコミュニケーションツールとしての効果も発揮することになるだろう。
「冒険心」を届けるビジュアルストーリー
ジープ厚木店の野立て看板は、平凡な広告媒体を超えて、地域とブランドのつながりを強化する新しい戦略の一例である。特に、自動車販売業のように購入までの検討期間が長い業種では、ブランドイメージの積み重ねが非常に重要だ。野立て看板は、その一歩を確実に支える手法として、今後も進化を遂げるだろう。
ジープの看板を目にしたとき、そこに描かれているのは単なる「商品」ではない。それは新しい生活の可能性であり、未知の冒険への入り口だ。街の風景に溶け込むその看板は、住民にとって「見逃せないランドマーク」となり、次第に「自分の物語」の一部になっていく。
次に海老名の街を訪れたとき、ジープの看板を見つけてほしい。その先に広がるのは、ジープが届ける自由な風景と冒険心 ―― そして、あなた自身の人生に新たな地図を描き加える瞬間だ。