コラム
Column
地元で愛される地域密着の葬祭企業 ― 野立て看板が描く「新しい住民との橋渡し」
かつては「○○さんのお葬式はあそこに任せれば安心」と地域の人々から絶大な信頼を寄せられていた地元の老舗葬祭企業。しかし、時代の流れとともに状況は変わりつつあります。ベッドタウン化が進み、新しい住民が次々と増えていく中、かつての地元密着型の葬祭企業はその認知度を徐々に失い始めていました。
「昔はね、誰もが知ってる葬儀屋だったんですよ。ご近所さんから頼まれることも多かったし、皆が『あそこのお葬式は温かい』って言ってくれていた。でも、今の若い世代や新しく引っ越してきた住人には名前すら知られていないんです」と、同社の代表は口にします。そこで、ある決断をしました。それは、複数本の野立て看板を活用して、地元での再認知を図ること。一見、葬儀業界とは結びつきにくい野立て看板ですが、この決断がもたらす効果は計り知れません。
地元密着型企業が直面する現実
地域に根ざした葬祭企業にとって、地元住民との「つながり」は何よりも大切な資産です。地域の習慣や風習を熟知し、個々の家族に寄り添った温かいお見送りを提供してきたこの企業も、今では全国チェーンの葬儀会社に顧客を奪われる苦境に立たされています。その理由はシンプルです――新しい住民が増え、昔ながらの「地元の葬儀屋さん」というブランドが通用しなくなってきたのです。
これまで葬儀を依頼してくれた家族は年々高齢化し、その子ども世代は新しい地域へと転出していきました。一方、新たに入ってきた若いファミリー層は、どこに葬儀を依頼すべきかを判断する際、地元の口コミではなく全国チェーンの知名度やウェブ広告を頼りにしています。その結果、かつては当たり前に選ばれていた地元企業は、競争力を失いつつあったのです。
認知度を取り戻すための戦略:野立て看板の活用
そんな中、この葬祭企業が着目したのが「野立て看板」です。葬儀と看板という組み合わせは地元での認知度アップには非常に効果的な施策です。
「新しく越してきた住民の方々に、うちのことを知ってもらいたい。『あの看板をよく見るな』と頭の片隅に残ってくれるだけでいいんです。いつか、大切な人を見送ることになったときに、『ここなら安心だ』と思ってもらえるようにしたい」と、同社の想いは真摯です。そこで、地域内の主要な幹線道路沿いに野立て看板を複数設置することにしました。
「温かさ」と「信頼感」を訴求する看板のデザイン
葬祭企業の看板は、派手な色使いや挑発的なキャッチコピーはふさわしくありません。むしろ、「落ち着き」と「信頼感」を感じさせるデザインが重要です。例えば、「あなたの街の大切なお見送り――〇〇葬祭」や「地域の皆さまと共に歩んできた、60年の信頼」というキャッチコピーを使い、背景には優しい色合いの自然の風景や、地域のランドマークを配置します。こうすることで、新しく越してきた住民に対しても「ここなら地元の風習を理解してくれそう」「温かい対応をしてくれそう」と感じてもらえるのです。
さらに、看板の下部には小さく「24時間365日、無料相談受付中」の文言を入れました。新しい住民にとって、葬儀について相談したいときに気軽に話せる相手がいるというのは安心感につながります。これにより、「まずは話だけでも聞いてみようかな」という心理的ハードルを下げることができるのです。
野立て看板が生む「話題性」と「安心感」
地元の人々が通勤や買い物で通る道に看板を設置すると、「あの看板、最近よく見るよね」と記憶に残りやすくなります。特に、葬儀というデリケートな話題ではありますが、身近な場所に信頼できる葬儀会社があるという安心感は、住民同士の関係性の中で誰かが葬祭会社を必要としているときなど、「あの看板でよく見る会社」という形で推薦される可能性も決して低くありません。
「そういえば、あそこの葬儀屋さん、最近看板出してたね」「地元のことをよく知っている会社だから安心」といった具合に、昔からの住民も、次第に新しい住民との橋渡しをしてくれるようになるのです。この自然発生的な口コミこそが、野立て看板の持つ力の一つです。
地域に根ざすということ
野立て看板は、広告であると同時に、地域の住民との「絆」を再構築するツールです。新しく越してきた住民に「地元の一員」として受け入れられるための「見える名刺」として、老舗葬祭企業はその存在感を取り戻そうとしています。
地元で長年培ってきた信頼と温かさを伝えながら、新しい住民にも「あなたのそばにいる存在」として認知してもらう――このバランスをうまく取り入れた野立て看板戦略は、これからのあらゆる地域密着型ビジネスにおいて重要な役割を果たしていくことになります。