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「家族葬・お葬式は ゆかりえ」──農地の脇に立つ、えんじ色の看板

2026年7月10日

タイトル画像:「家族葬・お葬式は ゆかりえ」──農地の脇に立つ、えんじ色の看板

渋滞の車列の中で

青空の下、道路に車が連なっている。助手席から窓の外に目をやると、農地が広がる緑の中に、一枚の看板が立っている。深いえんじ色の地に、白い太字。「家族葬・お葬式は ゆかりえ」。

読み終える時間は、おそらく三秒もない。信号待ちの渋滞であっても、それほどゆっくり看板と向き合う人はいない。そのわずかな時間に何を刻むか──看板とはつまり、三秒の勝負である。

この看板は、その三秒を静かに、しかし確実に制している。


「削る」ことの戦略性

イメージ画像:ふじみ式典の野立て看板


看板の左半分を大きく占めるのは「ゆかりえ」という文字だけだ。本社名「ふじみ式典」は表に出ない。あるのは、ブランド名と、それを修飾する「家族葬・お葬式は」という短い前置きのみである。

この設計は、偶然ではない。ふじみ式典はこれまで複数回、看板のデザインを変えてきたという。最初はもっと情報が多かったかもしれない。式場の特徴、電話番号、キャッチコピー。試行錯誤の末に行き着いたのが、このシンプルな形だ。

看板において、シンプル化とは情報の省略ではなく、覚悟の表明である。何を残し、何を捨てるか。その判断の積み重ねが、今のデザインに凝縮されている。「ゆかりえ」という名前だけを前面に押し出す選択は、すでにこの地域でその名前が一定の認知を得ていることへの自信の証でもある。

ふじみ式典:https://www.fujimishikiten.co.jp


「家族葬」と「お葬式」を並べる理由

イメージ画像:家族葬の様子とセレモニーホールの座席


前置きに注目する。「家族葬・お葬式は」とある。一見すると、言葉が重複しているように見えなくもない。しかし、この並列には明確な意図がある。

ふじみ式典の新式場「ゆかりえ綾瀬藤沢」は、家族葬専門として2026年4月に開業した。しかし看板は「家族葬専門」とは謳わない。「家族葬・お葬式は」と書く。この一語の差が、届く相手の範囲を決定的に広げる。

「家族葬を考えている人」にも届く。「普通のお葬式を考えている人」にも届く。どちらに絞るでもなく、両方に開いた問いかけとして機能している。これは曖昧さではなく、地域の葬送ニーズ全体を受け止めようとする包容力の表れだ。

ゆかりえ綾瀬藤沢式場:https://www.fujimishikiten.co.jp/hall/aysefujisawa/


二段の矢印が語るもの

イメージ画像:緑の背景に浮かぶ綾瀬市のシルエット


看板右側には、黄色い案内板が二段重なる。上段は「ゆかりえ綾瀬/綾瀬ICそば」、下段は「ゆかりえ綾瀬藤沢/落合交差点 右折1.5km」。それぞれに赤い矢印が添えられている。

二店舗を一枚の看板に収める。この構造が伝えるものは、道順だけではない。この地域に根を張る存在感を、言葉ではなく「数」で示している。一店舗より、二店舗。その厚みは、信頼の蓄積に直結する。


南を向いて立つ

イメージ画像:農地が広がる郊外の道路沿い


ゆかりえ綾瀬ホールは綾瀬市の北部に位置する。北側での認知は、時間をかけて積み上げてきた。だからこそ今回の看板は、南──藤沢方面を向いて立てられた。

まだ知られていない場所に向けて語りかける。その選択は、地域密着型ビジネスの本質をついている。認知の空白地帯を埋めにいく動きは、守りではなく攻めだ。2026年4月に開業した新式場の方向を示す赤い矢印は、まさにこれからの「縁」を結ぼうとする意志の向きを示している。

農地が広がる郊外の道路沿いに、えんじ色の看板は今日も立ち続ける。「ゆかりえ」という名前が持つ、縁や繋がりという意味は、看板そのものの佇まいにも静かに宿っている。