コラム
Column

白銀にマックイエローが映える――冬の野立て看板が語りかける“i’m lovin’ it”

どれだけ忙しく移動していても、ふと視界に大きく入ってくる野立て看板のインパクトは、やはり侮れないものだ。とりわけ冬の澄んだ青空や白銀の世界を背景に、ビビッドな色彩が踊る看板を見かけたら――看板の向こうから「おいでよ、雪と遊ぼう」と呼びかけられているような錯覚さえ覚えるかもしれない。
ここに一枚の写真がある。オーストリア・ウィーンの街で展開されたマクドナルドの野立て看板だ。鮮やかなマックイエローのウェアとスノーボードを身にまとったスノーボーダーが、青空に向かって大きくジャンプしている。弧を描く連続写真のコマ撮りによって、滑り出しから宙を舞い、着地するまでの動きが一枚のビジュアルに詰め込まれている。この広告には、マクドナルドのロゴやハンバーガー写真などが一切見当たらず、あるのは「Winter i’m lovin’ it」の短いコピーだけ。そして雪の白・空の青と対照的に、弧を描く鮮やかな黄色がひときわ目を引く。
いったい、なぜマクドナルドがこんなにスポーティかつ冬全開の看板を打ち出したのか? その答えは、実は“ブランドイメージを刷新しつつ、感情に強く訴えかける戦略”にある。野立て看板という一瞬の接触を最大限に活かすため、商品写真を載せる代わりに「冬の楽しさ」「アクティブなライフスタイル」を前面に押し出し、「マクドナルド=ポジティブな体験」の図式を脳裏に刻み込もうとしている。そんなマクドナルドの冬季キャンペーンを通じて、野立て看板がもたらす広告効果、認知度アップ、そしてブランディングの奥深さを探っていこう。
■参考サイト:https://www.adsoftheworld.com/campaigns/winter-i-m-lovin-it
野立て看板が生む「数秒の衝撃」と記憶の定着
人間は“瞬間の強烈な色”に弱い

広告媒体はデジタルが全盛という印象があるが、野立て看板はいまだに消えないどころか、独特の存在感を維持している。その理由の一つが“視覚の強制力”だ。特に主要道路や繁華街など、多くの人が通行する場所にドーンと設置されれば、視線を奪われずにはいられない。車窓からの一瞬や歩道での数秒であっても、鮮烈な色や動きを感じさせるデザインなら、そのイメージは意外なほど深く記憶に残る。
マクドナルドは昔から「レッドとイエロー」という強いコントラストを用い、商品写真を目立たせる広告を展開してきた。しかし、今回のウィーンの事例では、背景が完全に冬仕様――真っ青な空とまぶしい雪面――という舞台装置が生きる。その中で“マックイエロー”を着たスノーボーダーがジャンプする様子が連続写真でコマ撮りされているから、遠目でも「なんだ、あの黄色い軌跡は?」と好奇心が刺激されるのだ。
「繰り返し視認」で自然と頭に刻まれる
街中にある看板は、日々同じ道を行き来する人々が自然と何度も目にする。SNS広告やテレビCMなら簡単にスキップできる。でも、野立て看板はそこに固定され、通過するたびに目に飛び込んでくる。この“繰り返し視認”こそ、長期的な認知度アップには強い。マクドナルドのロゴやコピーに詳しくなくても、「あの雪山と黄色い人が跳んでる看板って何?」と記憶に残しやすいわけだ。そんな小さな疑問が積もり、「もしかしてマックの広告?」と察する瞬間に“ブランド”が印象付けられる。野立て看板は、こうした“無意識の刷り込み”が得意なのだ。
冬のスポーツを通じて“ブランドの楽しさ”を描く狙い
「i’m lovin’ it」と冬の躍動感

マクドナルドの代表的なコピーといえば“i’m lovin’ it”。これはハンバーガーやフライドポテトを「おいしく食べる」という文脈でのフレーズだと思われがちだが、実はもっと広義に「今、この瞬間をポジティブに楽しんでいる」という意を含む。そこで今回、冬のスポーツという躍動感あふれるシチュエーションと組み合わせて、「寒い季節もガンガン楽しんでやろう!」というポジティブなメッセージを押し出した。商品写真なしでも、マックの“楽しい世界”を連想させる効果を生んでいるのだ。
日常から解放される非日常感
スノーボードのジャンプ写真は、一瞬のうちに「自由」「スリル」「解放感」といった感情を呼び起こす。マクドナルドがあえて“冬山”を背景に選んだのは、単なる季節感を出すためだけではないだろう。日々のルーティンに疲れた人に対し、「週末はこんなふうにアクティブになってみたら? そして帰りにマックへ立ち寄ろう」という提案を暗に行っているのだ。雪山の爽やかさとファーストフードの気軽さが結びつくことで、「アドベンチャーを楽しんだあとに、気軽にマクドナルドへ」というライフスタイルを感じさせるわけだ。
連続写真のデザインが紡ぐ“ストーリー”
“連続ジャンプ”のコマ撮り手法

写真を見ると、一人のスノーボーダーが斜面を滑り、空中で回転し、着地に至るまでが何枚ものカットになっている。これを一枚の画像に重ね合わせることで、まるで映像を一コマ一コマ追いかけるように再現しているのだ。この技法は“シークエンス写真”とも呼ばれ、スポーツの迫力や動きを伝えるのに最適。さらに板やウェアがマックイエローに統一されているから、弧を描くように並んだ黄色い軌跡が本当に美しい。
余白を活かすシンプルレイアウト
冬山の白と青空の青、そしてジャンパーの黄色――この3色のみの構図は非常にシンプルでありながら鮮烈。そこへ「Winter i’m lovin’ it」というコピーがポツンと載っているだけで、余計な情報をそぎ落としている。野立て看板では、一瞬で見ても理解できる情報量が大切だから、この最小限主義がうまく機能しているわけだ。何枚もの合成写真に加えて文字がびっしり詰まっていたら、見る側はゴチャゴチャした印象を受け、記憶に残りにくい。しかし今作は、むしろ視覚の“余白”が印象を強めている。
「ポテトの束」に見える?ブランドカラーが生む連想
マクドナルドといえば、赤と黄色のコントラストが思い浮かぶ。今回の広告では大きな赤は登場しないが、“マックイエロー”が繰り返し連続している光景は、視覚的にポテトの束を暗示させるようにも見える。実際にはスノーボードとウェアなのだが、コマ撮りで重なっている光景が“フライドポテトがアーチ状に盛られている”ような連想を起こさせるわけだ。このような視覚的隠喩はマクドナルドに限らず、優れたブランディング戦略を持つ企業がよく使う手法だ。
野立て看板で消費者の心を突き動かすブランディングを

マクドナルドのウィーン発・冬季野立て看板キャンペーンは、商品そのものを前面に押し出さなくても、“マックイエロー”と“i’m lovin’ it”という要素だけで“あ、マクドナルドだ”と分かる見事なブランド力を示している。しかも、スノーボードの連続ジャンプという躍動感は、見ているだけで「楽しい」「爽快」「エネルギーに満ちている」という感情を喚起する。結果、雪と空の爽やかな青、マックのイエロー、そしてコピーの白が三位一体となり、“冬だってポジティブに楽しもうよ、i’m lovin’ it!”というメッセージを街角で静かに叫んでいるわけだ。
野立て看板の真髄は、数秒の接触で印象づけ、繰り返しの視認で記憶に定着させること。その特性を最大限に活かして、マクドナルドは“ハンバーガー写真を載せない”という大胆な逆張りで、ブランドの世界観を伸び伸びと表現してみせた。小規模事業においても、季節性や色彩のコントラスト、短いコピーの妙技などは大いに参考になるだろう。削ぎ落とす勇気と、見る者の感情を揺さぶる工夫こそ、広告の核心といえる。