コラム
Column

太陽を打ち負かす男たち――インドのスキンケア会社の看板デザイン
2025年2月12日

灼熱のビーチで、飛びかかるようにボールを追う男がいる。汗が光る筋肉が太陽を反射している。視線の先にあるのは、まるで“ボール”のごとく大空に浮かぶ太陽だ――その一瞬を捉えたビジュアルが、街角の野立て看板にどんと掲げられている。人々は立ち止まり、看板のデザインに目を奪われる。
インドのメンズグルーミングブランド「UOMO Men’s Grooming」が2024年12月から展開している「Outplay the Sun」キャンペーンは、まさにそんな風に“目と心を奪う”ビジュアルで勝負している。日本で暮らす私たちは、インドという国名を聞けば灼熱の日差しや多彩な文化を思い浮かべるかもしれないが、実際には若い世代を中心に勢いあるベンチャー企業が続々と誕生し、新しい価値観やライフスタイルを発信している。UOMO Men’s Groomingは、その一つの象徴とも言える存在だ。
■参考サイト:https://www.adsoftheworld.com/campaigns/outplay-the-sun
野立て看板が生む“思わず振り返る”瞬間

野立て看板と聞くと、日本では生活道路の沿道や主要幹線道路沿いに立つ看板を想像する方が多いだろう。車で運転中、否応なく目に飛び込んでくる看板が無数にある。しかし、多くの人はほとんどの看板を「見ても記憶に残さない」。
企業名と連絡先がそっけなく書かれただけの無機質なデザインだったり、ごちゃごちゃと小さな文字や写真でレイアウトされたデザインだったり、あるいは、一見しただけではどんな企業の何を宣伝している看板なのかさっぱりわからないデザインだったり。ほとんどの看板は、実は記憶に残りにくい。けれど、UOMO Men’s Groomingの広告は違う。
同社のキャンペーンでは、強烈な日差しの下で躍動する男性が、太陽をバレーボールやバスケットボール、テニスボールに見立てて「勝負」している姿を描く。まさに「Outplay the Sun(太陽を打ち負かす)」――そんな設定が、一発で私たちの興味を引き寄せる。しかも野立て看板という物理的な媒体にこのビジュアルが配置されていると、通りがかった人は「太陽をボールに見立てる」という設定に面白みを感じる。目と記憶に焼き付くのである。ここにこそ“野立て看板”の醍醐味がある。ほんの一瞬の視線を奪い、記憶に刻む力だ。
「Outplay the Sun」に込められたブランドの思い

UOMO Men’s Groomingは、2023年にインドで生まれたばかりのスタートアップ。ヒゲや髪のスタイリング剤を中心に、高品質かつ“自分らしさ”を追求する若年層の男性たちをターゲットにしている。
そんな同社が今回推し出しているのは、「Urban Sun Barrier」という日差し対策アイテム。インドのように日光が強い地域では、日中の活動やスポーツを楽しむにあたって、日焼け・紫外線対策は切実な問題となる。
しかし、UOMOは単に「お肌を守る日焼け止めクリームですよ」とは言わない。むしろ、「太陽に遠慮するんじゃなく、がっつり遊び尽くそう」という能動的なメッセージを伝えている。ヒゲや髪型、スキンケアも含めて、男性が自分らしく堂々と表現するための一つの手段として“グルーミング”を捉えているのだ。だからこそ、キャンペーンのキャッチコピーは「Outplay the Sun」――日差しさえも味方につける、いや越えていけるほどのパワーをイメージさせる一言が冠せられている。
日常を“舞台”に変える野立て看板の可能性

この広告キャンペーンは、オンラインでも映えるビジュアルだが、実際には街のあちこちに掲げられた屋外広告(OOH)の存在感が大きい。真夏の空をバックに飛びかかる男性の姿は、ビルの壁面や道路沿いの看板で見ると、より一層の迫力を生む。オンライン広告が溢れる今だからこそ、こうしたリアルスペースの広告が逆に新鮮で、目を奪われるケースが増えている。
野立て看板には、テレビCMやSNS広告にはない“立ち止まらせる力”がある。特に、ここまで大胆なビジュアルと分かりやすいコンセプトがあれば、通りすがりの人が「あれ、何の広告だろう?」と気にする確率はぐんと高まる。その後、スマホで検索してブランド名を調べ、「へえ、最近スタートしたインドのグルーミングブランドなんだ」と知ってもらえば認知度は一気に上がる。
日本の地域ビジネスや小規模事業にとっても、このUOMO Men’s Groomingの野立て看板事例は大いに参考になる。特に、低予算でブランディングを強化したいと考える経営者や店舗オーナーにとっては、「どうすれば自社の魅力を伝えられるか?」「どうやって地域住人の意識を掴むか?」という課題に対し、野立て看板によるブランディングという選択肢を知る、大きなきっかけになるはずだ。その観点から通行人を顧客に変える看板デザインについて考えてみたい。
地域ビジネスも真似したい“野立て看板ブランディング”の鍵

まず、重要なのは「ストーリー性」だ。UOMOは「Outplay the Sun」というシンプルなキーワードを軸に、太陽と対峙する男性を通じて“負けない姿”を視覚化し、「日差しにさえ打ち勝てるプロダクト」を訴求している。
もしあなたの店がカフェなら、「香り立つコーヒーの一杯が、どんな時間を作るか」という物語を描き出してみる。医院なら、「痛みや不安を和らげる、思いやりのある空間」をごくシンプルな言葉でまとめ、イメージビジュアルでドラマチックに伝える。それこそ、数秒で見て終わりの看板だからこそ、グッと心を掴む“瞬間”が必要なのだ。
次に、「デザインの大胆さ」。UOMOの看板は、余計な文字情報をほとんど入れず、視線を奪う写真とキャッチコピーを大きく配置している。必要最低限の情報で、“何か面白そう”“自分も挑戦してみたい”と思わせる力がある。ついつい営業案内や電話番号、メニューの一覧を詰め込んでしまう気持ちはわかるが、看板は「すべてを説明する場所」ではない。興味を引き、行動を促す「トリガー」に徹したほうが、結果的に効果が高いケースが多い。
そしてもう一つ大切なのは、「ブランドの理念を貫く一貫性」。UOMOが掲げる「すべての男性が自分らしさを表現できる世界を目指している」という理念が、ヒゲや髪型といったグルーミング行為の意義を高め、「Outplay the Sun」というメッセージにも繋がっている。もしあなたの事業にも“守りたい信念”や“実現したい未来”があるなら、それを看板で示すことは、消費者の心を揺さぶる大きな力になるだろう。 あなたのビジネスにも、きっと“野立て看板で描ける物語”があるはずだ。それはたとえば、太陽に挑むほどの雄大なテーマじゃなくてもいい。むしろ身近な日常をほんの少しドラマチックに変えることが、地域のファンを増やす第一歩になる。勇気を出して、自分が信じる世界観を堂々と掲げてみよう。見る人が思わず足を止め、スマホで検索し、やがてあなたの店や医院に足を運んでくれるかもしれない。