コラム
Column
道路沿いのちょっとした驚き ― ユーモラスな野立て看板が生むブランド力
2024年11月12日
私たちは日々の生活の中で、道路沿いに設置された野立て看板を何気なく目にしています。しかし、これらの野立て看板が、潜在的な消費者に対して感情的かつ心理的な影響を与える可能性を持っていることは、あまり認識されていません。
野立て看板は情報の伝達手段にとどまらず、消費者に「体験」を提供するメディアとして機能します。特に、ユーモアを取り入れたデザインの看板は、通行人に対して強烈な印象を与え、ブランドとの関係を深める重要な手段となり得ます。
野立て看板の魅力とサプライズ演出
野立て看板の顕著な特性は、その「地域密着型の広告」としての訴求力にあります。道路沿いに設置することで、日々の通勤や通学、買い物などで同じ道を通る人々に対して、ブランド認知を自然な形で浸透させることが可能です。
たとえば、「ここを曲がったら、笑顔が待っています」といったシンプルなキャッチコピーの看板があるとします。この看板を目にした通行人は、「道を曲がったところになにがあるのだろう?」という疑問を抱くはず。そして道を曲がったところにあるものに対して期待感を抱くでしょう。
たったこれだけのコピーが掲出された看板でも、通行人の記憶には確実に残ることになります。そして、このようなメッセージが繰り返し目に触れることで、そのブランドや店舗の存在そのものが無意識のうちに記憶に残り、店舗への訪問を促す自然な動機付けが形成されます。
このような一種のサプライズ演出は、地域内での認知度向上やブランド構築には大きな効果を生み出すものです。
海外事例と野立て看板のデザイン
中米の南に位置するコスタリカは、人口約500万人。人口だけで言えば小国と言ってもいいでしょう。ところが特筆すべきは教育水準の高さと、そこから生まれる「人間開発指数(HDI)」の高さです。
何しろ国家予算における教育予算は、全世界平均4.4%に対し、コスタリカは6.9%に達しているのです。その結果、知的水準の高い高学歴労働者が多く生まれ、近年では金融、工業、製薬、ITなどの分野での発展が中南米随一と著しく、農業分野での発展と相まって、国民の「幸福度」が非常に高い国(国連調査による)になっています。
知的水準の高いコスタリカ。掲出される屋外広告にも、その知的レベルの高さが伺えるウィットに富んだものがありました。
コスタリカの首都サンホセの街に3本セットとなった野立て看板が設置されました。
ドライバーの目線に合わせて3本の板面が視野に入るよう、道路に面して斜め一列に並べられています。
真ん中に設置された看板には、「El pue pestanea pierde(まばたきしてる間になくなってる)」というコピーが記されています。その前後の看板は、ある商品の「ビフォー、アフター」の写真とロゴの一部だけというデザイン。
このコスタリカの街にある日突然登場した3本セットで掲出された野立て看板。実は、マクドナルドの「マックフライポテト」の広告でした。
1本目の看板には「赤いケースに入ったマックフライポテト」の商品写真が全面に掲出されてます。
2本目の看板は、「まばたきしてる間になくなる」というコピーだけ。
そして3本目の看板は、「ポテトがなくなった空の赤いケース」の写真。
ドライバーが最初の看板を視認してそのまま移動すると、すぐに「まばたきしてる間になくなる」という表記の看板が目に入り、さらに「ポテトがなくなっている」様子を目にすることになります。
道路上に設置された、まるでマンガのコマ割りのような看板。思わずクスッと笑ってしまう看板デザインです。
ユーモアは高度な知的作業。看板を1本だけで商品を訴求するのではなく、連続したものを設置することで、商品の美味しさと魅力を伝える演出。消費者の購買意欲をそそります。
このような看板演出手法は、消費者に対する広告効果を飛躍的に高めることに寄与します。ユーモアと視覚的なストーリーテリングを用いることで、看板は消費者との「対話」を生み出し、ブランドとのつながりを強化する重要な役割を果たすわけです。ブランドとの感情的なつながりを構築する力を生み出すということです。これは、ブランドロイヤルティの強化にも寄与します。
参考サイト:https://www.adsoftheworld.com/campaigns/you-blink-you-lose
行動喚起 ― ユーモラスな看板で消費者に笑顔を届ける
今回の海外事例のように、ユーモアを感じさせる野立て看板は、企業の情報発信の広告ツールという側面だけではなく、消費者に笑顔とちょっとしたサプライズを提供する媒体になります。それがもたらす意味は、消費者との感情的なつながりを築くところにあります。
日常生活の中で何気なく目にした看板が、思わず笑みを誘う瞬間、消費者はブランドをより身近に感じ、強い好意と信頼を生み出すことになります。
広告を「コスト」としてばかり捉えるのではなく、「笑顔を届けるための投資」として位置づけてみる。野立て看板と言う広告媒体にユーモアをプラスすることで、情報発信の媒体以上の価値を生み出し、消費者の日常に「特別な瞬間」を提供するものになっていくでしょう。そして、その看板を通じて感じた楽しさや驚きは、ブランドに対する好意的な感情として記憶に残り、その店舗やサービスを利用しようという意欲を喚起します。