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海外事例:「見えない野立て看板」がもたらしたブランド効果

2024年11月8日

海外事例:「見えない野立て看板」がもたらしたブランド効果

野立て看板の目的は、「広告の内容をドライバーや通行人に向けて訴求し記憶してもらうこと」にあります。これは、企業の商品、サービス、店舗・医院の案内など、あらゆる業種・団体にとって共通の目的。そのためには、いかに視認性を確保するかが、効果を最大化するためには大切な要素になります。

数年前、ロシアの首都モスクワで、25階建てのビル壁面を丸ごと「看板」にした例がありました。スマホメーカー「サムスン」が、新製品発売の告知をしたのです。25階建てのビルを丸ごと「看板」にするという発想には驚きましたが、その「視認性」にはもっと驚きました。なんと、2キロメートル手前からもはっきりとこの「看板」が見えていたそうです。

海外事例:「見えない野立て看板」がもたらしたブランド効果

さて、今回ご紹介するのは、ある意味「サムスン」とは真逆の野立て看板の使い方であると言えるかもしれません。なぜなら、「看板の視認性」を犠牲にした野立て看板だからです。

アルゼンチンの保険会社・La Cajaは、交通事故の多発する急カーブの道路に、自社の看板を設置しました。看板には同社のロゴマークと共にこのようなメッセージが記されています。

「このカーブを見ることは、私たちの広告を見るより重要です」

昼間は、この看板のメッセージがよく読めます。ところが夜間になると、看板がまったく見えなくなってしまうのです。なぜなら、看板に設置した複数のサーチライトが、急カーブの路面を明るく照らし出すから。つまりドライバーは、看板からのライトによって明るく照らされた道路を安全に運転ができるという仕掛け。

しかし、このライトが設置されている看板は、ドライバーの目からはまったく視認できません。見えるのは、道路わきから道路上に向けて照らされる「光」のみ。

ドライバーから看板の内容が見えないのであれば、看板を設置する意味がない――多くの方はそう思われるはず。実際、この企画に対して当初、社内においてもそのような意見が多く挙がったようです。しかし、結果として、この道路を照らす看板を設置後、この死亡事故が多発していた場所での事故が減ることになりました。そして、事故を減らした原因が道路上を照らすライト、野立て看板からカーブ上に照射されるサーチライトであることを多くの市民が知ることとなり、この看板を設置したのが保険会社・La Cajaであったという事実が浸透していきます。そして同社は、消費者からの「認知度」ばかりでなく、「好感度」まで得ることになる。

安全運転を言葉によるメッセージで呼びかけるのではなく、道路を明るく照らすことで現実的に事故を防ぐ。


考えつきそうでなかなか形にできない発想だと思います。「看板を見てもらって企業名を覚えてもらう」という直接的なアプローチではなく、「看板で交通事故を減らし企業の価値を伝える」という考え方。企業名だけを覚えてもらうより、企業の価値を認知してもらう方が、企業ブランディングという意味では重要なこと。そのような意味で、同社の野立て看板は成功しています。

参考サイトhttps://www.adsoftheworld.com/campaigns/billboards-that-saves-lives


広告比較コスト:小規模投資で大きな効果

海外事例:「見えない野立て看板」がもたらしたブランド効果


野立て看板は、他の広告手段と比較してコストパフォーマンスに優れています。例えば、テレビCMやSNS広告と比べても、設置費用は相対的に低く、なおかつ、長期間にわたり消費者に向けて継続的な露出をする広告媒体です。この継続的な露出が、地域住民に対してブランドの存在感を強固に印象付ける要因となります。

テレビCMやオンライン広告は瞬間的な注目を集める効果がある一方で、コストが高く、一度の露出で持続的な影響を与えるのは難しいという課題があります。それに対して野立て看板は、道路沿いに設置されることで、地域の住人に毎日繰り返し視覚に訴えることが可能です。これにより、ブランドのメッセージが無意識に消費者の記憶に刻み込まれ、最終的には購買行動に結びつく確率が高まるわけです。

特に、地域密着型の小規模ビジネスにとって、こうした広告は長期的にブランド認知を築くための非常に効果的な手段となります。野立て看板は、メッセージをシンプルにかつ視覚的に強調することで、地域内での深い認知を可能にし、ブランドの信頼感を醸成する重要なツールとなり得ます。また、地元住民に対して「いつも見かける存在」として定着することで、ブランドに対する親近感を生み出し、消費者との間に感情的なつながりを築くことができるという、ブランディングにとって重要な効果も生まれます。


ブランド認知

海外事例:「見えない野立て看板」がもたらしたブランド効果


アルゼンチンの保険会社「La Caja」の事例は、野立て看板が単なる広告手段ではなく、ブランドの物語を消費者に共有し、共感を呼び起こすための重要なツールであることを示しています。看板は情報伝達の媒体であるだけでなく、ブランドと消費者を結びつける「物語の語り部」として機能するのです。

さらに、看板は企業の存在だけでなく、その理念や価値観を消費者に伝える役割も担います。例えば、La Cajaは「通行人から見えない看板」を設置するにあたり、

Not to light the billboard. But to light the road.(看板を照らすためではなく、道路を照らすために。)

というメッセージを発信しています。つまり同社がこの野立て看板で伝えたいものは、保険会社としての価値観や哲学であり、単純に保険商品を売るための広告ではない、ということを示しているわけです。こうしたメッセージが消費者に共感を与え、ブランドへの信頼感を醸成するのです。ブランド認知は単なる名前の認知に留まらず、ブランドの背後にある物語や価値観に対する理解と共感が不可欠です。

また、このような長期的なブランド構築の一環としての野立て看板の役割は、消費者との関係を深化させ、競争優位性を確立するための重要な手段となります。看板を通じてブランドの存在を常に意識させることで、競合他社との差別化を図り、消費者にとっての選択肢として優位に立つことが可能になります。このように、野立て看板はブランド認知を超えて、ブランドロイヤルティの構築にも寄与するのです。

野立て看板はブランド認知の第一歩

海外事例:「見えない野立て看板」がもたらしたブランド効果


野立て看板は、人々にブランドを伝え、物語を共有し、長く記憶に残る媒体でもあります。看板は一見すると古臭いアナログな広告手段に思えますが、綿密な戦略に基づいた看板は、ブランド構築の優れたツールとなり得ます。さらに、小さな投資からでも、大きな変革をもたらすことができるという特性も、野立て看板が優れた広告媒体である根拠となります。

たとえ最初は1本の野立て看板でも、それが地域におけるブランド認知の第一歩となり、将来的には大きなビジネス成長につながるかもしれません。看板を通じて伝えるメッセージは、消費者との対話であり、ブランドの価値を共有する手段です。あなたのビジネスの未来も、道路沿いの野立て看板から始まるかもしれません。