コラム
Column
驚きと親しみが生む記憶 ― フランスでのALDIの野立て看板事例
2024年11月6日
看板広告は、受け手の記憶に深く刻まれることで、ブランドとの感情的つながりを築く力を持っています。この点を実証する好例として、ディスカウントストア「ALDI(アルディ)」がフランス全土で展開した野立て看板の事例を紹介し、野立て看板による広告がいかにしてブランド認知を強化するかを検討していきます。
看板広告の役割は、商品やサービスの情報を伝えることにあります。しかし、そればかりではありません。むしろ、視覚的刺激を通じて消費者に驚きと感動をもたらし、ブランドのメッセージを深く記憶に焼き付けることこそ、看板、特に野立て看板の本質なのです。この広告心理学的側面を最もよく表しているのが、ALDIがフランス市場で展開したユニークな広告キャンペーンです。
「なぜここで?」という疑問を誘うALDIの看板
ALDIは、ドイツを本社に持つ世界的なディスカウント大手で、9000軒以上の店舗を持ち、豊富な品揃えと驚異的な低価格で知られています。同社の特徴として、取り扱う商品の95%が自社ブランド(PB商品)であり、世界のどの店舗でも「同一商品の同一価格」を実現している点が挙げられます。しかし、この特色がなぜか「フランスでだけ」十分に認知されていませんでした。
そこでALDIは、フランスの消費者に「同一商品の同一価格」という特徴を強く訴求するため、ユニークな野立て看板をフランス全域に設置しました。
例えば、フランス南部のアヴィニョンには、フランス西部のナントのセール案内が掲示され、
南東部のニースには北部のブリ=シュル=マルヌにある店舗案内が設置されました。
さらに、南東部のサン・トロペでは
北西部のル・アーブル店を紹介しています。
このように、遠く離れた都市の店舗情報を敢えて掲示することで、消費者に混乱と興味を喚起させる構造となっています。
「なぜアヴィニョンでナントのセール案内が掲示されているのか?」
と、通行人は首をかしげます。
この一瞬の違和感は、看板の効果を高める非常に重要な要素です。視覚的な違和感が生まれることで、通行人は看板により深い関心を向け、その意味を理解しようとします。この「なぜ?」という疑問が、ALDIのメッセージを強烈に印象付けるのです。
参考サイト:https://www.adsoftheworld.com/campaigns/misplaced
「なぜ?」から「なるほど!」へ ― 記憶に残る看板の仕掛け
この看板には、小さな一文が追加されています。それは次のような内容です。
「セールの価格はお客様の近くのアルディ店舗と同じです。なぜなら私たちの価格は、フランス全土どこでも同じだから」
この一文を目にしたとき、通行人は「なるほど!」と納得し、思わず微笑んでしまいます。このように、最初の「なぜ?」という疑問から始まり、その答えを発見したときの驚きと納得感のプロセスは、ALDIのメッセージを強く記憶に刻む効果を持っています。
この仕掛けは、同店の商品の価格の安さを伝えるだけにとどまらず、消費者の心にALDIの理念を深く刻み込むものであり、広告が持つべき最も効果的な要素である「感情的なつながり」を生み出しています。ALDIは、この心理的プロセスを巧みに利用し、「なぜ遠く離れた都市の案内がここに掲示されているのか?」という疑問をその土地の消費者の心に引き起こし、その答えにたどり着いたときに、ブランドへの親しみと理解を深めることに成功したのでした。
広告というのは、単なる情報の羅列では消費者の関心を引くことはできません。特に現代の情報過多な社会において、消費者の目に留まり、記憶に残るためには「引っかかり」が必要です。ALDIの野立て看板は、この「なぜ?」という疑問を巧みに利用して、通行人の注意を引き、その後のメッセージを確実に記憶させるように仕組まれています。
ブランド認知を高める地域密着型の野立て看板
野立て看板には「案内」ではなく「記憶」に残す力が求められます。ALDIがフランス全土で実施したキャンペーンは、これを極めて効果的に実現しました。看板広告は、地域に自然に溶け込みながらも、見た人々に深い印象を与えるメッセージを伝えることができます。ALDIのケースでは、人々に「なぜ?」と思わせ、その後「なるほど!」と納得させることで、ブランドの「どこでも同じ価格」という強みを強く訴求しました。
また、野立て看板は地域の風景に自然に溶け込むため、親しみを感じさせつつも、インパクトのあるメッセージを伝えることが可能です。特に、地域密着型の小規模なビジネスにとっては、地元住民に対して親近感を与え、日常の中でブランドの存在を強く意識させる効果が期待できます。このように、地域に密着した広告手法は、ブランドとの感情的なつながりを築くための重要な手段となります。
あなたのビジネスにも、この驚きを
ALDIの事例から学ぶべき点は、広告は「情報を伝える手段」として考えるのではなく、消費者に感情的な体験を提供するもの、という考え方をすることで、消費者に向けてのブランド認知が可能になるということです。野立て看板を活用して、「なぜ?」という疑問と「なるほど!」という納得感を生み出すことで、ブランドのメッセージを深く刻むことができるわけです。
あなたのビジネスにおいても、野立て看板を消費者との「感情的なつながり」を築くためのツールとして活用してみてはいかがでしょうか。感情的なつながりが生む記憶は、消費者にとって非常に強力な効果を持ちます。広告は情報を伝えるだけでなく、消費者との対話を創出するものであり、その対話を通じてブランドは、消費者の生活に寄り添う存在へと進化します。